手と身体のふるえ(震え)について
知り合いからパーキンソン病では?と言われました。どうしたらいいですか?
手や足、その他、頭あるいは体の一部が自分の意思とは関係なく勝手に震える症状のことを振戦(しんせん)と言います。皆さんの中には、知人や調剤薬局の方から「パーキンソン病では?」と心配され、病院受診を勧められた方もおられるかもしれません。震え自体は命に関わる症状ではありませんが、字がうまく書けない、お箸が使いづらい、コップがうまく使えないなど、日常生活にも支障や影響を与えることがでてきます。なお、健康な人でも緊張や寒さなどで一時的に震えることがありますが、中には治療すべき病気が隠れていることがあります。震えの大半は緊急を要するものではないのですが、どうしても心配な方あるいは気になる場合には、一度専門の医療機関へ相談してみてください。

よく耳にする手のふるえ(震え)には、どのようなタイプがあるのですか?

震えには、大きく分けて「じっとしている時の震え(安静時振戦)」と「動作中に関係する震え(動作時振戦)」の2つのタイプがあります。これらの震えは、そのタイプによって隠れている病気や病態が異なることになります。さらに、動作時振戦は震えが出てくるタイミングによって、さらに細かく分けられています。

安静時振戦

力を抜いてじっーとしている時、リラックスしている場合に震えが出ます。
  • 主に手、足、顔などに見られ、動作を始めると一時的に軽減または消失することあります。
  • パーキンソン病に特徴的に見られます。パーキンソン病では手足の震えだけでなく、筋肉が硬くなり動作が鈍くなったり、歩行が前傾で小刻みとなり、転びやすくなったりします。

動作時振戦

体を動かしている時や、特定の姿勢を保っている際に現れる震えです。

姿勢時振戦

重力に逆らって一定の姿勢を保つ時に震えます。例えば、腕を上げたままにしている時や新聞を読んでいる姿勢時などに見られます。
  • 考えられる原因:生理的振戦、本態性振戦、甲状腺機能亢進症、アルコール依存症などが挙げられます。

運動時振戦

手を動かし始めると震えが始まり、目的の動作が終わると収まります。コップで水を飲もうと口に運ぶ時に震えますが、口に届けば止まるようなケースです。
  • 考えられる原因:本態性振戦などで起こります。

企図振戦

目標物に近づくほど震えが強くなるタイプです。コップを口に運ぶ際に口元に近づくにつれて震えがひどくなり、飲み物がこぼれてしまうことがあります。
  • 考えられる原因:小脳の病気が隠れている可能性があります。

ふるえ(震え)を引き起こす病気・病態には、どのようなものがあるのですか?

身体が震える原因は、寒さやストレス、運動後といった一時的なものから、体の栄養状態や様々な病気まで多岐にわたることがあります。その特徴を簡単にまとめましたので、ご参照下さい。

生理的振戦

誰にでも起こり得る生理的な震えです。寒さや過度の緊張、重いものを持ち続けた時などに一時的にみられるものです。後で述べる甲状腺機能亢進症の震えは、生理的振戦が増強した状態とも考えられています。

本態性振戦

手の震えの原因としてもっとも多いものです。震え以外の症状がなく、画像の検査や血液検査などでもはっきりした原因となる病気を特定できない場合の震えです。震えは手に最も多く現われますが、頭部や声、足、体幹にも震えがでることがあります。遺伝的な素因も関係すると言われ、40歳以上では約20人に1人(4~5%)に見られ、加齢とともに増える傾向があります。精神的な緊張が溜まると一時的に症状が悪化することもあり、アルコールを摂取すると静まる特徴もあります。震えの主体は動作時振戦であり、一定の姿勢で手を挙げているとき(姿勢時振戦)や、何かを使用として手を動かすと震えが生じ始めます(運動時振戦)。日常的には文字を書く動作や、コップを持った時に気づかれることが多い震えです。次に述べるパーキンソン病の震えとは異なり、じっと安静にしている時にはほとんど見られません。

パーキンソン病

安静時に起こる振戦はパーキンソン病にかなり特徴的な震えです。じっと座ってテレビを見ているときや、手を下ろして歩いているときなどに見られ、緊張で出現しやすくなります。左右の手で差があることがほとんどで、足に震えが出現することもあります。震え以外には、動き出すまでに時間がかかったり、動作自体が鈍く遅くなったりします。さらに筋肉がこわばり、動きがぎこちなくなり、歩行のバランスも悪くなります。また、歩く際には第一歩目がなかなか踏み出せない「すくみ足」を示すこともあります。但し、一度歩き出すとだんだん早くなり、止まりにくくなる「突進現象」も特徴のひとつです。その他、自律神経の症状としての便秘、嚥下障害、唾液分泌過多(流涎)、起立性低血圧(立ちくらみ)などもしばしば見られます。

甲状腺機能亢進症

手を伸ばした時や、特定の姿勢をとった時に現れる細かい震え(姿勢時振戦)が特徴的です。特にペンで字を書くのが難しくなるといった症状が見られます。本態性振戦の震えに似た性質を持ち、甲状腺機能亢進の患者さんの70~80%に手の震えが見られると言われています。甲状腺ホルモンの値が正常に戻るにつれて、震えは比較的早く改善し、消失していきます。

アルコール依存症

手を一定の姿勢に保ったときに生じる姿勢時振戦が特徴的です。手の運動により震えが強くなりやすく、特に飲酒を中断したときに震えが出やすくなります。依存症の期間が長くなると、常に震えが出るようになる場合もあります。

薬剤性振戦

安静時に震えるパーキンソン病とは異なり、薬剤性振戦では物を持ち上げる時や、お箸を使う時など、手足を動かしている時の動作時の振戦が特徴的です。さらに、パーキンソン病では体の片側から震えが出始めることが多いのに対し、薬剤性振戦では左右対称性に震えが現われることが特徴です。原因となる薬剤には、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、抗てんかん剤、気管支拡張剤などがあります。なお、薬剤性振戦を含む薬剤性パーキンソン症候群では、動作時の震え以外には仮面様顔貌、唾液分泌の増加、筋肉のこわばり、動作緩慢などといったパーキンソン病と類似した症状を呈することもあり、その鑑別には注意が必要です。

脳血管障害に伴う振戦

脳血管障害によって脳の運動機能に関連する領域が損傷されると振戦が生じることがあります。また、脳卒中が原因でパーキンソン病に似た症状(歩行の不安定性、姿勢保持の困難さ、筋肉のこわばり、すくみ足など)が現れることもあります。特に小脳に脳梗塞や脳出血が起こると、体の一部分(片側の半身など)に運動し始めると震えが現れることがあります(企図振戦)。

ふるえ(震え)に対する治療は、その病態や重症度に応じて判断していきます!

震えに対する治療アプローチは、その原因や症状の重症度に応じて多岐にわたります。軽度の振戦から、薬物療法が必要な中等度以上の振戦、さらには外科的介入が検討される重度のケースまで、患者の状態に合わせた適切な治療法の選択が広がっています。震えが日常生活に支障をきたしたり、徐々に悪化したりする場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

軽度の場合

  • ストレス対策や生活指導が中心
  • 書字の際は太めの筆記用具を使用するなどの工夫
軽度の振戦に対しては、まず非侵襲的なアプローチが推奨されます。ストレス管理が重要な柱となり、瞑想やヨガなどのリラックス法の導入が効果的です。また、十分な睡眠や規則正しい生活リズムの確立も症状改善に寄与します。日常生活では、細かい作業時の工夫が有効で、例えば書字の際は太めのペンを使用したり、重みのある食器を選んだりすることで、震えの影響を軽減できます。これらの小さな調整が、生活の質を大きく向上させることもあります。

中等度以上の場合

中等度以上の震えに対しては、薬物療法が主要な治療選択肢となります。

本態性振戦の場合

交感神経の興奮を抑え、震えを和らげようとする目的で、高血圧や狭心症でも使用されているβ遮断薬(アロチノロール)が使用されています。β遮断薬が合わない場合や効果が不十分な場合には、抗不安薬や抗てんかん薬(プリミドン)が処方されますが、これらの薬剤は中枢神経系に作用して震えを抑制します。

パーキンソン病の場合

パーキンソン病による振戦には、レボドパ製剤をはじめとする抗パーキンソン病薬が使用されます。これらの薬物療法は、症状の程度や患者の年齢・状態に応じて、専門医が慎重に選択していきます。

薬物療法で効果が不十分な場合(外科治療)

薬物療法で十分な効果が得られない重度の震えに対しては、より侵襲的な治療法が検討されます。主な選択肢として脳神経外科的手術があり、本邦ではすでに約50年前から行われていました。視床Vim核の焼却凝固術は、震えに関与する脳の特定部位を熱で破壊する方法です。次に行われるようになった方法は、脳深部刺激療法(DBS)で、刺激用の電極を脳内に埋め込み、皮下に心臓ペースメーカーに似たような刺激装置を植え込み、リード線を接続して常に脳の深部を刺激するという方法です。刺激の条件を変更することで症状の変化に対応していくことができます。

最新の治療法:MRガイド下集束超音波療法(FUS)

最新の治療法として注目されているのが、MRガイド下の集束超音波療法です。この治療法は、原理としては視床を正確に熱凝固する定位脳手術(視床破壊術)に似ているのですが、約1,000本の超音波のビームを一点に集中させて温度を上昇させるので、皮膚切開、穿頭、脳に電極を刺入することなどが一切不要で、患者さんにとってストレスが少ない手術です。ただし、欠点としては、超音波が通りやすくするために剃髪が必要になったり、頭蓋骨の条件が良くないと十分な治療効果が得られない、ということが挙げられています。この方法は、2019年6月から保険適応となり、2020年4月からは脳神経外科の手術(集束超音波を用いた機能的定位脳手術)として扱われるようになりました。FUSの保険適応は、現時点では本態性振戦とパーキンソン病に対して認められています。頭を切らなくても済む治療法として、希望される方が増えつつあり、今後の発展が期待される治療法です。

まとめ

手の震えは、中高年以降の方が経験する症状のひとつであり、その原因や要因は様々です。加齢による自然な現象の場合もあれば、特定の病気で起こることもあります。震えの原因を特定するためには、その震えがどのような状況下で起こりやすいのかを観察することが大切です。震えのため日常生活に不便・支障をきたしている場合は、専門の医療機関へ相談することをお勧めしています。特に、震え以外の身体症状(筋肉のこわばり、動きが鈍くなり、歩きにくさなど)を伴う場合には、治療すべき病気(パーキンソン病など)が隠れていることがありますので、脳の専門医に相談しましょう。