教えてドクター
医療に関して、患者さんからよく聞かれる質問や疑問をお答えしております。
是非ご参照ください。

Q1. 高血圧の薬は一度飲み始めると一生飲み続けないといけないの?

当院でも高血圧の薬を内服されている患者さんがたくさんいらっしゃいますが、その中で時にご質問いただくのが、「高血圧の薬は一生飲み続けないといけないの?」あるいは、「高血圧の薬は一旦飲みだしたら止められないと聞いたのですが…(だから飲みたくない)」というものです。今回はこの疑問に対してどのように薬と付き合っていくべきかを下記にまとめてみました。

高血圧の薬は治療薬というよりは予防薬と考えるのが良い

「高血圧の薬はいつか止められるの?」という問いに答える前に、まず高血圧の薬を服用する意義・理由について考える必要があります。高血圧は血圧の高い状態が続く病気ですが、多少血圧が高くても症状はほとんど現れません。しかし、症状が現れないにもかかわらず、身体の中では知らず知らずのうちに高血圧の悪影響がじわりじわりと広がっていきます。血圧が高くなることで血管壁が傷ついて硬くなり、それが続くことで全身の動脈硬化が進んでしまうのです。
一般にタミフルなどのインフルエンザの治療薬は、インフルエンザウイルスそのものを退治し、ウイルスを直接やっつけます。そのためインフルエンザウイルスによって生じた発熱、咳、咽頭痛などが一旦治癒すれば、インフルエンザの治療薬(タミフル等)を飲み続ける必要はありません。
他方、高血圧の薬は血圧を下げて血圧値を安定させ、血管への負荷やダメージを減らしてくれます。そうすることで動脈硬化によって起こる脳卒中や心筋梗塞、あるいは慢性腎臓病になるリスクを減らすことができます。しかし、血圧を下げる薬では一旦生じた動脈硬化をもとの状態に回復させることは不可能ですので、降圧剤の服用を中断すれば当然血圧は再び上がってきます。
すなわち、高血圧の薬は、”将来、長生きする為の投資”という考え方ができるかもしれません。高血圧の薬を飲み続けることで、動脈硬化によって引き起こされる脳卒中や心筋梗塞、あるいは慢性腎臓病の発症を未然に予防でき、皆さんの健康寿命を延ばすことが期待されています。つまり、脳・心血管病の発症リスクを減らす=長生きする為には、過度に血圧が高くならないようにする必要があり、その選択肢のひとつとして”高血圧の薬=降圧剤”があるのだと考えましょう。

高血圧の薬は状況によって減量・中止することも可能です

では最初の質問に戻って、「高血圧の薬は一生飲み続けないといけないの?」という疑問ですが、前にも述べたように将来的な脳・心血管病の発症リスクを減らすためには、血圧を高くならないようにする必要があり、その為に薬の力を借りるというのは一つの選択肢です。但し、薬以外の方法でも血圧が上がらないようにすることができれば、高血圧の薬を減量あるいは中止できる可能性がでてきます。
一般に、高血圧の治療には“薬物療法と非薬物療法”があるのですが、生活習慣の是正・改善は非薬物療法とも呼ばれ、薬を飲みたがらない人にもできる高血圧治療の基本です。つまり、これまでの生活習慣を見直すだけでも、血圧を下げることにつながることがあります。降圧剤をすでに服用している方では、さらなる降圧効果が得られる可能性があり、長期的な生活習慣の是正により血圧をさらに安定化させ、将来的な脳・心血管病の発症リスクを軽減させることにつながります。具体的な生活習慣の見直しや是正には、以下のようなものがあります。
  • 食事療法(塩分制限や食物繊維[野菜・果物]の積極的摂取およびコレステロール・飽和脂肪酸の摂取制限)
  • 運動療法による適性体重の維持(BMIが25未満)
  • 禁煙・節酒など
特に、日本人にとって高血圧の予防に欠かせないことは食塩摂取量の制限であり、1日6g未満にすることが強く推奨されています。また、全く運動していなかった患者さんが有酸素運動を毎日するようになると、血圧が10mmHg程度下がることは度々経験します。さらの禁煙や飲酒量を減らすることでも血圧が10~20mmHg程度下がる患者さんも時々いらっしゃいます。このように生活習慣の是正・改善で血圧を下げることができた際には、今服用している降圧剤を減量あるいは中止することが可能になるかもしれません。但し、現実的には加齢に伴う動脈硬化の進行で高血圧が発症した場合には、それに打ち勝つぐらい生活習慣の見直しや是正をしっかり実践できる患者さんはそこまで多くはないので、どうしても高血圧の薬を続けて服用した方が、血圧を下げるという目標に早く到達できることになるかもしれません。

自己判断で高血圧の薬をやめてはダメです

世の中にはどうしても降圧剤の服用を躊躇する患者さんがいることも事実です。それは「血圧の薬を飲まないといけない身体になってしまった…」という老化への感情的な抵抗(受け入れたくない!)があるかもしれません。生きている限り、日々老化し、時には不摂生してしまった結果、血圧が高くなることを受け止め、向き合うことが大切だと考えます。
医師の指示通りに内服を続けたことで血圧が正常化し、その状態を維持できている場合には、降圧剤の減量や中止を検討する方々がでてきます。そのような場合には、日々の血圧状況を確認しながら、少しずつ薬を減らしていくことになります。もし血圧が下がってきても、自己判断で内服を中止したりはせず、必ず医師や看護師に相談することが重要です。
我々医師は、患者さんの降圧剤が一時的に中止された場合にも、この患者さんは減塩などの血圧を上げない生活習慣の改善を続けられそうか?あるいは生活習慣の見直しだけで安定した血圧を維持できるのか?を総合的に判断し、降圧剤の減量や中止の指示を出すことになります。もし降圧剤が中止になったとしても、その後の血圧変化を詳細に記録し、次の外来診察時に血圧状況を伝えることも重要となります。
医師はいろんな場面を想定しながら、総合的に降圧剤の減量や中止が可能かどうかを判断しますので、患者さん自身の判断だけで薬を減らしたり、止めたりはしないでください。
以前、まだ50歳代の方で血圧の薬を自己中断し、血圧測定を怠っていた方が脳出血で倒れ、右半身の麻痺と言語障害という重い後遺症が残ったことを覚えています。もし血圧が下がってきている場合には、「自分は薬を減らすことができる状態なのか?」を担当医もしくは看護師に相談してみて下さい。
また、血圧は季節によっても変動があり、気温が高い夏季には冬に比べると血圧が下がることが多いです。夏季に血圧が下がりすぎる患者さんでは、季節限定で休薬や減薬する等、気温等に合わせた調整が行われることもあります。さらに日々の血圧を測定・記録している方では、自ら血圧が高くなってきていることをいち早く知ることなり、怖い脳卒中や心筋梗塞を未然に防ぐ大切な予防策となるはずです。

まとめ

高血圧は風邪や肺炎のようにかかって治癒する疾患ではなく、上手にお付き合いしていく必要のある慢性疾患のひとつです。うまくお付き合いするために血圧が高い状態が続けば、薬の力を借りて血圧を良好な状態に保つことが必要になります。但し、必ずしも一生薬を飲み続けないといけないわけではありませんが、降圧薬の減量・休薬は生活習慣の見直しや是正、あるいは治療に取り組んだ結果、目標血圧値が維持できていることを確認して、専門家である医師が判断をすることになります。その場合でも血圧が再上昇する可能性があることを念頭に置いて、定期的な血圧測定や通院、生活習慣を維持することを忘れないように頑張りましょう。

Q2. 健診や人間ドッグで血圧が高いと言われました。今後どうしたらいいでしょうか?

健診や人間ドックで「血圧が高い」と言われたけど……病院を受診すべきか悩んでいました。最近はそんな悩みで当院に相談に来られる方も増えてきています。一般に高血圧は自覚症状がほとんどないため、「様子見でいいのかな?」と思っている方も多いと思います。また、健診で血圧が高いことを初めて指摘され、患者さん自身もこれまであまり気にしていなかった高血圧を意識し始めるようになります。では実際に血圧高値を指摘された際にどう対処・対応すればいいのかをまとめてみました。初めて高血圧を指摘されびっくりされている方、以前からどう対応すればいいのかをわからずに悩んでいる方、これまで血圧は低い方だったのでそんな(血圧が高い)はずはないと疑っている方などは是非ご参照ください。

そもそも高血圧ってどんな病気?

高血圧は多くの日本人が抱える健康問題のひとつで、血圧が正常範囲を超えて高い状態が続く場合に、高血圧症と診断されます。具体的には、少なくとも2回以上の異なる機会での測定値が一定の基準値(病院内:140/90以上 、家庭内:135/85以上)よりも高いときに高血圧症と判断します。一般的には加齢に伴って血圧は高くなりやすいのですが、健康な方でも時間帯や気温変化、あるいは運動の影響やストレスで一時的に血圧が高くなることがあります。しかし、そのような一時的な血圧上昇だけを見て高血圧症とは診断しませんので、日頃の家庭内での血圧変動などを参考にしながら高血圧症と診断されることもあります。

高血圧には特有な症状があるの?

高血圧は初期段階では目立った自覚症状がないため、多くの人が生活の中でも見過ごしている病気だと思います。しかし、血圧が極端に高くなった場合には、頭痛やめまい、耳鳴り、肩こり、あるいは気分不良などの症状を起こることがあります。但し、これらの症状は血圧上昇とは無関係に生じることもあり、高血圧症に特有な症状と判断することが難しいケースもでてきます。そのため我々は幅広い可能性を頭に入れながら患者さん対応に努めるようにしています。

もし高血圧と言われたら、すぐに病院を受診したほうがいいの?

先にも述べたように、高血圧症では自覚症状が乏しいため、そのまま放置されやすいのですが、いつの間にか身体の中はむしばまれていることが多くなります。血圧高値のため全身の血管が傷ついてもろくなり、目に見えない動脈硬化がじんわりと進行していき、いろんな臓器に悪影響を及ぼしていくサイレントキラー(忍び寄る殺し屋)と呼ばれる病態です。すなわち、高血圧をそのまま放置していると生活に支障をきたす脳卒中・心筋梗塞・慢性腎臓病などの合併症の発症が多くなります。ですから健診や人間ドッグで血圧高値を指摘された際には速やかに医療機関を受診し、全身に様々な悪影響が及んでいないかを評価してもらうことが大切になります。その結果によっては、これまでの生活習慣を見直したり、あるいは早めの薬物療法(薬による治療)を検討してもらう必要がでてくるかもしれません。

受診する病院の見つけ方、高血圧は何科を受診したらいいの?

皆さんの中にも、「高血圧と言われたけど、何科を受診したらいいの?」とお悩みの方もおられると思います。胃腸が悪いときは消化器内科、目が悪いときは眼科といった具合に「高血圧科」というものがあればわかりやすいのですが、残念ながらそのような診療科はあまり多くありません。日本での高血圧患者数は推定約4,300万人とされ、20歳以上の日本人では約2人に1人が高血圧だといわれています。決して珍しい病気ではないため、一般的な内科や高血圧に関連した心臓・腎臓・脳関連などの診療科であれば、高血圧を診てもらうことが可能だと思います。もし、ご自身や家族にかかりつけ医がおられる場合には、身近なかかりつけに医に相談することも対策のひとつです。しかし、かかりつけ医がいない場合は、今後しばらくは定期的に通院する可能性がありますので、自宅や職場から近い病院を探すことがいいかもしれません。
なお、当院のような脳神経のクリニックでは脳梗塞、脳出血あるいはクモ膜下出血などの血管病変を扱うことが多いので、何よりも血圧管理が重要となる診療科です。そのため、当院では日頃から血圧の正しい測り方を含めて血圧高値の危険性についてもわかりやすく教えております。また、高血圧が全身に悪影響を及ぼしていないかをMRI、CT、頸動脈エコー、血管年齢、および採血などで検査することができますので、血圧高値でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

高血圧の治療は、まず生活習慣の改善から

高血圧の治療には薬物療法(薬による治療)と非薬物療法(薬によらない治療)がありますが、その中でも薬を使わない非薬物療法が高血圧治療の第一歩となります。すなわち、極端に血圧が高い場合を除いて生活習慣の見直しや修正を行うことだけで、ある程度血圧を下げることができます。
高血圧の発症には加齢や遺伝的要因(血圧が上がりやすい体質)も関与していますが、日頃の生活習慣を改善するだけでも血圧を適性値に下げることが期待できるのです。さらに長期にわたり生活習慣の改善が維持できれば、心疾患や脳卒中の発症リスクも軽減され、健康寿命の延長にもつながっていきます。また、若いときには血圧は低い方だった方が、年齢を重ねることで血管の弾力性低下を招き、徐々に血圧が高くなってしまうこともあります。さらに更年期になるとエストロゲンの相対的な減少をきたし、血圧をコントロールしている自律神経系に影響し血圧が上昇傾向となったり、あるいは不安定になることもあるようです。具体的な生活習慣の見直し・改善には、以下のようなものがあります。
  • 食事療法
  • 運動療法
  • 禁煙・節酒
食事療法で最も重要になるのは減塩ですが、高血圧の改善・重症化予防を考えた場合の目安は1日6g未満です。身近なこととしては減塩調味料を使用する、あるいは塩分の高い味噌汁ではなく豆乳スープに変えるなどの工夫から始めてみましょう。但し、血圧が常時140/90mmHg以上ある方は、薬物療法を行いながら生活習慣の改善・見直しも同時に行うことをお勧めします。「自分はまず生活習慣を改善して血圧を下げる!」と張り切っても、実際に食生活を見直し、減量しながら血圧を下げることができたとしても、そのためには2~3年という月日を要することになるかもしれません。また、時には減量や生活習慣の改善もうまくいかないこともありますので、その間も高血圧の状態が続いてしまえば懸念される脳卒中、心臓病、腎臓病などを引き起こしてしまうリスクが高くなるのです。
他方、運動に関しては、ウォーキング・ランニング・自転車・水泳など毎日30分以上の定期的な有酸素運動が推奨されています。有酸素運動を続けることで心臓や血管が強くなり、血液を送り出す力がアップしていきます。心臓のポンプ機能が高まると、同じ量の血液を送り出すにもより少ない力で対応できるようになります。その結果、心臓の負担が軽減され血圧上昇を抑える効果が期待できます。さらに運動は血管内皮を刺激して一酸化窒素(NO)を放出し、血管を柔らかく、拡張させて血圧を下げる効果があります。
一方、タバコは「百害あって一利なし」と言われるように血圧や血管に対してもマイナス効果(デメリット)が多いとされ、タバコに含まれるニコチンが血管を収縮させ血圧を上昇させます。すなわち、血圧が高い方が喫煙すると動脈硬化を進行させて血栓ができやすくなりますので、高血圧の管理においても喫煙は大敵となってしまいます。また、同時にアルコールは摂取量が多くなると血圧が上昇しやすくなりますので、1日に摂取する飲酒量をコントロールするとともに、休肝日を設けることで生活習慣の是正につながると思います。少量のアルコールはリラックス効果もありますが、アルコールを取ると気分が大らかになり、ついつい飲酒量もおつまみも増えがちです。お酒のおつまみは塩分が多いものが多く、カロリーと塩分の取り過ぎにつながります。また、お酒を飲む時間が長くなるのも飲酒量が増える原因になりますし、料理をしながらの飲酒もできるだけ避けた方がいいです。お酒やおつまみは飲み始める前にある程度の量を決めて、おかわり控えるのが飲酒をうまくコントロールするコツかもしれません。

高血圧に対する薬物療法

薬物療法は薬を服用することで血圧を適性値まで下げる治療です。薬物療法をいつ始めるのか、あるいはどんな薬を使用するかは患者さんの年齢・高血圧の程度・合併症の有無・心臓や腎臓など他の臓器への影響を医師が総合的に判断して決定していきます。血圧を下げる薬が降圧薬(降圧剤)ですが、降圧薬には大きく分けて「血管を拡げる薬」「体内を循環する血液の量を減らす薬」があります。前者はカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)などがあり、後者には利尿薬などがあります。
選択される薬剤は先ほども説明した通り、患者さんの状態や医師の判断によっても異なってきますが、大事なことは担当医の指示がない限り、自分で判断して薬の量を調整したり、中止しないようにしましょう。但し、薬を飲み始めた頃に何かいつもと違う症状があった場合には副作用の可能性がありますので、すぐに医師に報告しましよう。

まとめ

高血圧はもはや日本人にとって最も身近な病気になっていますが、自覚症状がほとんどなかったり、普段の生活に特段の支障がなかったりすると、高血圧のリスクについてもピンとこない人も多くいるのではないでしょうか。しかし、血圧高値をそのまま放置してしまうと全身の血管にダメージを与え、目に見えない動脈硬化の進行・増悪を招いて、取り返しのつかない脳卒中・心臓病・腎臓病などの重大な合併症を引き起こすことになります。合併症の発症リスクを下げるには適切に血圧を管理することが重要となりますので、健診や人間ドックで血圧高値を指摘された場合には速やかに専門医に相談することが大切です。もし、極端な高血圧がなければ減塩・運動・禁煙/節酒などの生活習慣の見直しや修正だけで、血圧高値を適性値まで改善できる場合もでてきます。定期的に健診や人間ドッグを受けること、あるいは家庭内での血圧測定習慣は、将来的に健康寿命を延長させる重要な予防策につながるものと思われます。