立ちくらみと失神
頭から血の気が引くような、気が遠くなるような経験はありませんか?
立ちくらみは、座った状態や寝た状態から急に立ち上がった際などに、一時的に眼前が暗くなったり、クラッとしてふらついたりする症状を示します。これは、急激な姿勢の変化により脳への血流が一時的に低下するために起こるもので、医学的には「前失神」とも呼ばれることがあり、失神の一歩手前の状態を現わします。そのような状況になると頭から血の気が引くような、気が遠くなるような感覚を覚えたりする方もおられます。大部分は短時間でおさまるため安易に考えがちですが、繰り返して起こる場合、あるいは症状が回復しても頭痛や吐き気、手足のしびれなどを伴う場合には何らかの異常が起こっている可能性があり、早急な対応が必要になることがあります。

どのようなことが原因で「立ちくらみ・失神」は起こるのですか?

一般に、立ち上がる際には重力によって血液が下半身に集まりやすくなりますが、通常であれば、この血圧低下を正常に保とうとする生体反応が起こってきます。しかし、その調整がうまくいかないと脳への血液供給が不足してしまい、立ちくらみが生じてしまいます。もし、限度を超えるような血流低下が起こると意識を失う「失神」という状態を招きます。普段の失神であれば、数分以内で意識が回復し後遺症を残すことは稀ですが、意識のない状態が長く続く場合には意識障害をきたしており、重篤な脳疾患を併発している可能性を考慮しなければなりません。
日常生活の中で一時的な脳血流の低下が生じると「立ちくらみ」を自覚することになりますので、「脳のどこかに異常が起こっているのでは?」と考えるのは当然のことです。ところが、多くの場合には脳自体が直接の原因となることは多くはなく、自律神経系の乱れやそれに基づく血流異常のため、二次的に脳血流が減少することで起こってきます。一般には、下記に示す4つの病態が立ちくらみや失神の原因として挙げられますが、その頻度としては神経調節性失神起立性低血圧が多くを占めています。但し、最も注意しなければならないのが心原性失神であり、当院のようなクリニックでは「危ない失神」を如何に見極めるかが重要なポイントになります。

神経調節性失神

これは文字通り「自律神経の乱れで、脳への血流を調節する神経がうまく働かなくなってしまうことで起きる失神」のことで、反射性失神とも呼ばれています。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類がありますが、交感神経は緊張した時に働く神経で、血圧を上げたり、心拍数を上げる働きがあります。他方、副交感神経は逆にリラックスした時に機能しますので、血圧を下げたり、消化管の働きを強めます。普段の日常生活では、この2つの神経が状況に合わせてうまく調節されていますが、神経調節性失神では交感神経活動が活発になったあと、それに対する生体の防御反応(副交感神経の活動)が過剰に誘導され、二次的に脳への血流減少が生じ、そのために起こった生体反応ということになります。このような防御反応は誰にでも起こり得る応答ですので、下記に示すような誘因を避けることが失神の予防にもつながります。神経調節性失神はメカニズムの違いによって、下記のように3つに細分類されています。

血管迷走神経性失神

血管迷走神経性失神とは、副交感神経である迷走神経が過度に働き過ぎて、血圧・心拍数が低下し、二次的に脳への血流が減少することでめまいや立ちくらみなどの症状が生じ、放置すれば失神に至ることも生じてきます。その特徴としては以下があげられます。
  • 長時間の立位や不眠・疲労・精神的ストレスで誘発されやすい(朝礼・採血時)
  • 人混みや閉鎖空間などの環境要因でも誘発される
  • 発作の直前に目の前が暗くなる、ふらつき、冷汗、吐き気といった前兆がある

状況失神

状況失神とは、ある特定の状況や日常動作で誘発される失神のことで、細かいメカニズムは異なりますが、最終的には迷走神経活動の急激な亢進などにより、血圧・心拍数が低下して失神が生じるとされています。
  • 排尿失神:排尿する時に誘発される失神のことで、立位で排尿する男性に多く、中高年に比較的多いが20代から発症することもあります。飲酒や利尿薬の服用が誘因になることがあります。
  • 排便失神:比較的高齢(50〜70代)の女性に好発し、切迫した排便や腹痛などの症状を伴うことが多い。
  • 咳嗽失神:せき込むときに誘発される失神のこと。太っている方やがっちりした体格の中年の男性に多い。喫煙者や飲酒している方にも多いのが特徴。

頸動脈洞過敏性失神

頸動脈洞とは血圧を監視する圧受容体であり、首元に存在しているセンサーのようなものです。加齢による血管壁に動脈硬化が加わり、頸動脈洞自体が過敏な状態となり、首元への機械的な刺激に容易に反応するようになり、脳への血流が減少して失神を招きます。頸動脈洞過敏性失神は中高年の男性に多く、心臓疾患や高血圧を合併していることがあります。
  • ネクタイなど首を絞めるような動作
  • 着替えや運転などで頸を伸ばしたり、曲げたりする動作
  • ヒゲを剃る時の首を後屈する動作

起立性低血圧

立ちくらみや失神の重要な原因として起立性低血圧があります。人は横になっている状態から立位になると、概ね500ml程度の血液が下肢や内臓に移動するため、心臓への血液量が少なくなります。そのため一時的に血圧は下がるのですが、通常の場合であれば血液の変動に対応する「圧受容器-反射系」が血圧を一定に保とうとして働きます。起立性低血圧は、この反射経路がうまく作動せずに起立時に大きく血圧低下を起こし、脳への血流が相対的に減少することで立ちくらみや失神に至る疾患です。このような病態は、以前より「脳貧血」とも呼ばれており、イメージ的にも馴染みのある呼び方だと思われます。

起立性低血圧の特徴は?

  • 起立後3分~5分以内に、収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する状況
  • 朝起床時・食後・運動後にしばしば悪化する
  • 体位性頻脈症候群(POTS):仰向けから立ちあがった時に血圧低下は生じないが、心拍数が120/分以上となるか、あるいは前値よりも心拍数が30/分以上増加する病態を現わします。

起立性低血圧の原因・要因は?

起立性低血圧は上記でも説明したように、大部分は反射経路の異常、つまり自律神経障害で生じる病態です。つまり、生体機能を活発化させる交感神経とリラックスさせる副交感神経のバランスが崩れ、起立時に末梢血管が十分に収縮できずに脳への血流が維持できなくなることが原因となります。さらに、このような病態に悪影響を与える他の要因も存在し、低血圧がより悪化しやすい環境になっていきます。
  • 脱水:体内の水分量が不足すると、循環する血液の量が減少し、血圧が低下しやすくなります。特に夏場や運動後など、脱水になりやすい状況では注意が必要です。
  • 薬の副作用:高血圧の治療薬や狭心症の薬、抗うつ薬、精神安定剤など、一部の薬は副作用として起立性低血圧を引き起こすことがあります。
  • 他の疾患との関連:糖尿病や甲状腺機能低下症、パーキンソン病などの病気は、自律神経の機能に影響を与えるため、起立性低血圧の原因となることがあります。また、貧血や思春期に見られる起立性調節障害でも低血圧が生じやすくなります。
  • 加齢:加齢に伴い血管の弾力性が低下したり、血圧を調整する機能が衰えたりすることで、高齢者は起立性低血圧を発症しやすくなります。
  • 一時的な要因:長時間の立位、食後のインスリン反応、消化管への血液貯留なども一時的な血圧低下の原因となることがあります。また、アルコール摂取も脱水効果を誘導するため、血圧低下を招く可能性があります。

心原性失神

心臓の病気が原因で脳への血液供給が一時的に不足し、最終的には意識を失う失神発作をきたす病態があります。このタイプの心原性失神は、失神全体の10~15%で決して多くはありませんが、他の失神(神経調節性失神や起立性低血圧による失神など)に比べて生命予後が悪く、突然死につながる怖い失神です。

心原性失神の特徴は?

  • 労作中や仰向けでの失神:運動中に意識を失ったり、仰向けの状態で失神したりする場合があります。
  • 突然の動悸や胸痛:動悸や胸の痛みを感じた後に意識を失う場合には、心臓発作と関連して失神することもあります。また、神経調節性失神とは異なり、冷や汗、気分不快、吐き気などの前兆がほとんどなく、突然に失神することが特徴です。
  • 不整脈:心臓の拍動が遅すぎる徐脈(1分間に60回未満)、または早すぎる頻脈(1分間に100回以上)が原因で失神することがあります。房室ブロックや心室頻拍などの心電図異常がみられることもあります。
  • 既存の心疾患:大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、陳旧性心筋梗塞といった構造的な心臓病がある場合にも失神をきたすことがあります。
  • 家族歴:若年での原因不明の急死や、運動中の失神の家族歴がある場合。遺伝性の心疾患の可能性も考えられます。

心原性失神の原因は?

【不整脈】
心臓の拍動リズムの乱れが原因で、脳への血流が一時的に途絶えて失神します。
  • 徐脈性不整脈:心拍数が極端に遅くなることで、脳への血流が不足し失神します。洞不全症候群や房室ブロックなどが含まれます。
  • 頻脈性不整脈:心拍数が非常に速くなり、心臓が十分に血液を送り出せなくなることで失神します。心室細動や心室頻拍などが該当します。
【器質的心疾患】
心臓に構造的な病気があると脳への血流が十分に保てずに失神することがあります。
  • 心筋症:心臓の筋肉に異常がある病気で、特に運動中に失神を引き起こすことがあります。
  • 弁膜症(大動脈弁狭窄症)や冠動脈疾患(心筋梗塞)でも失神をきたすことがあります。
  • その他:肺塞栓症、急性大動脈解離なども原因となることがあります。

脳疾患に伴う失神

失神の原因として、脳疾患が直接的に関係するものは約10%程度と言われています。脳卒中の前兆であったり、てんかんのような発作性疾患で失神様症状を呈することがあります。なお、脳血管の異常による失神では突発的に起こることが多いため、冷汗や徐脈といった迷走神経の前駆症状を伴わないことがあります。

脳血管の病気

脳の動脈硬化が進行している場合や、血液の粘度が高い場合に一時的に脳への血流が減少することで失神が起こることがあります。
  • 椎骨脳底動脈循環不全:脳幹部への血流が低下した状態を表し、複視やめまいなどの症状を伴うことがあります。さらに血管の病気だけでなく、頸椎症の患者が頭部を特定の姿勢に動かした際に立ちくらみ様の症状が起こることもあります。
  • くも膜下出血:重症の場合には昏睡状態になってしまうことが多いのですが、失神だけで一時的に回復する軽症例のことも稀にありますので注意が必要です。
  • 一過性脳虚血発作(TIA):一時的な脳血流低下により、脳梗塞と同様の神経症状(麻痺、ろれつ不良、意識消失など)が一過性に生じる病態です。これは本格的な脳梗塞の予兆として考えた方がいいかもしれません。

てんかん発作

脳内の神経細胞の過剰な電気的興奮によって、けいれんや意識障害などを一時的に引き起こす病気です。意識消失だけで、全身のけいれんを伴わないてんかん発作もありますので、そのような場合には失神との区別が難しくなります。なお、てんかん発作の場合には、発作後には意識の混乱状態が続いたり、強い眠気が残るなど、元の状態に回復するまで時間を要します。

けいれん性失神

けいれん性失神とは、失神に加えて一時的に筋肉のぴくつきや硬直(けいれん)を伴う状態を指します。脳への血流が一時的に不十分になることによって引き起こされる失神の一種であり、失神患者の15~40%で起こるとも言われ、けいれん発作と見間違われることもあります。

立ちくらみ・失神が起きたときの対処法

  • 姿勢を低くする:転倒による事故を防ぐため、しゃがみこむか、可能であれば横になりましょう。横になる際は足を高くして休むことで、下半身に溜まっていた血液を心臓に戻しやすくし、脳への血流を改善する効果が期待できます。
  • 体を締め付けているものを緩める:ベルトやボタンなど、体を締め付けている衣服を緩めるとリラックスしやすくなり、症状の緩和につながります。
  • 水分を摂る:軽度の立ちくらみの場合、脱水が原因で脳への血流が不足していることがあります。少しずつ水分を摂ることで改善されることがあります。
  • 回避する動作:前兆を感じたら、血圧を一時的に上昇させる動作・行動が有効なことがあります。(足を交差させて組む/お腹を曲げてしゃがみ込む/両腕を組んで引っ張り合う)

まとめ

立ちくらみという症状は、急に立ち上がったり、長時間にわたり立位を保持している際に、目の前が暗くなったり、ふらついたりすることが特徴的です。患者さんによっては気を失いそうになる不安感・恐怖感を伴うこともあり、一時的な脳血流の低下がその原因となります。このような病態は、大部分が自律神経の乱れが影響して生じますが、稀に重篤な病気が潜んでいることもあります。立ちくらみ症状が頻繁に起こる場合や、立ちくらみに加えて麻痺やしびれなどの神経症状を伴う場合、あるいは動悸や胸の圧迫感などが付随する場合には、自己判断せずに医療機関に相談することが大切となります。