脳ドッグで「隠れ脳梗塞」と言われました。今後どう対応したらいいですか?
以前より、健康診断などで隠れ脳梗塞という言葉を耳にする機会があり、何となく不安に感じている方もいると思います。隠れ脳梗塞とはその名の通り、外側からはわからない「隠れた脳梗塞」のことを表します。健康診断や脳ドックを受けた際、あるいは頭痛、めまいでMRI検査を受けた場合に思いがけず発見される病変です。もし、隠れ脳梗塞があると言われたら「これから本当の脳梗塞になるのだろうか?」あるいは「今の段階では何か治療は必要ないのだろうか?」と心配になる方も多いと思います。隠れ脳梗塞についてご心配な方、疑問をお持ちの方は参照されて下さい。
一般に、脳梗塞とは脳の血管が詰まってしまい、その先に血液が届かず脳組織が死んでしまう病気です。通常、脳梗塞になってしまうと、梗塞に陥った部位に関係する手足の麻痺やしびれ、言語障害あるいは視野欠損などの神経症状が現われてきます。ところが、脳梗塞になっても、小さい脳梗塞あるいは重要ではない箇所に起こった脳梗塞では、実は症状を出さないこともあるのです。このように、運よく症状が現われない脳梗塞のことを「無症候性脳梗塞」と呼びますが、世の中的には隠れ脳梗塞と呼んだ方がなじみのある名前かもしれません。今回は、隠れ脳梗塞という病気を症状がないから放置していた場合、将来的に「症状のある脳梗塞や脳出血、あるいは認知症」につながる恐れがあることについてご説明していきます。
どれぐらいの頻度で、隠れ脳梗塞は起こっているの?
隠れ脳梗塞は、穿通枝という細い動脈が詰まって起こるラクナ梗塞と呼ばれる小さな脳梗塞巣が主体であり、その最大の危険因子は高血圧と言われています。一般に、隠れ脳梗塞が見つかる頻度は加齢と共に増加していきますが、65歳以上の3,660例を対象としたMRIの研究では28%に認められたと報告されています。また、日本人966例を対象とした研究では40歳以下ではほとんど認められず、60歳代以上で約20%、70歳代以上になると約30%にも達すると言われ、高齢者世代では決して珍しくはないかもしれません。このような状況を踏まえると、隠れ脳梗塞は健康な方でも加齢とともに増えていく病態ですので、やはり老化現象のひとつとして捉えるべきだと考えられます。
もし隠れ脳梗塞が見つかったら、どんなことに気をつけないといけないの?
高齢者を対象とした外国の調査では、隠れ脳梗塞を有する症例では平均4年の追跡期間の間に、脳梗塞のない人に比べて脳卒中リスクが4倍も高いことが報告されています。また、我が国の人間ドックでの調査においても、隠れ脳梗塞がある人はその後に脳梗塞や脳出血などの脳卒中の発症リスクが有意に高くなると報告されています。さらに、隠れ脳梗塞を有する例では、将来的な認知症の発症リスクを2倍以上も増加させるという報告が見られています。すなわち、隠れ脳梗塞は脳卒中の再発リスクだけではなく、認知症という質の異なる病気も併発しやすくさせます。もし偶然に隠れ脳梗塞が見つかっても、その時点では症状がないので、深刻な脳疾患になってしまうリスクを軽く考えがちです。もし実年齢よりも隠れ脳梗塞の割合がより多い方は、若い世代から厄介な脳卒中へ移行するリスクが高くなる可能性を認識する必要があるかもしれません。
なぜ隠れ脳梗塞は起きてくるの?その予防はどうすればいいの?
一般に隠れ脳梗塞の危険因子としては、加齢、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が挙げられています。中でも最も大きな危険因子が高血圧であり、血圧が高い状態が長く続くと血管壁に負担がかかり、動脈硬化を進行・増悪させ、血管自体がもろくなっていきます。その他にも、喫煙、過度な飲酒、肥満、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群なども隠れ脳梗塞の危険因子と言われており、動脈硬化を促進させて全身の血管病をきたしやすくしますので、こちらも気をつけるようにしましょう。
通常、症状のある急性期脳梗塞の場合であれば、命に関わる可能性もあるため、速やかに治療を受ける必要が出てきます。ところが隠れ脳梗塞の場合には、偶然に見つかった病気で症状がありませんので、緊急的な処置・治療をすぐに受ける必要はありません。しかし、大事なことは、隠れ脳梗塞を併発した要因や原因を細かく分析し、脳梗塞になりやすい危険因子を早めに見つけだし、それをできるだけ取り除き、将来的に神経症状を呈するような脳卒中へ移行しないように注意することが大切です。ですので、まずはこれまでの好ましくない生活習慣を見直したり、どこかに改善点がないかを検討することが重要となります。そのような中では、喫煙という生活習慣は、唯一完全に取り除ける危険因子でもあるため、禁煙が強く勧められます。さらに、最大の危険因子である高血圧をうまくコントロールするためには、自宅での血圧測定を習慣化し、減塩や運動など生活習慣の是正・改善を心がけましょう。既に高血圧で治療を受けている場合は治療をきちんと続けながら、脂質異常症や糖尿病がある場合にも健康的な食生活や運動習慣を心がけるとともに必要に応じて治療を受けるようにします。
上記の内容は、隠れ脳梗塞を増悪させないためにはとても大切ですので、人間ドッグや健康診断などで血圧やコレステロール、血糖値などの異常を指摘されている人は、生活習慣を見直すことから始めてききましょう。病気にかかる前に何よりも予防することが大切な治療と言えるでしょう。
隠れ脳梗塞では一般的な抗血栓薬による治療が必要なの?
MRI検査などで隠れ脳梗塞が見つかった場合、先ほども述べましたが、まずは隠れ脳梗塞を起こした要因・原因を詳細に調べだすことが大切です。血圧が多少高くても自覚症状が乏しいのが高血圧ですが、血圧高値が長く続くと隠れ脳梗塞を起こしやすくするので、やはり血圧管理が最優先されます。また、その他の危険因子や既存の生活習慣病を悪化させないようにすることも、結果的に隠れ脳梗塞や症状を呈する脳梗塞を防ぐことにつながります。他方、隠れ脳梗塞例での抗血小板療法は慎重であるべきと言われていますが、これは隠れ脳梗塞では血小板活性が亢進していることが指摘されているためです。つなわち、脳ドックでの隠れ脳梗塞例の追跡調査では、その後に脳出血を併発した例が21%も混在しているため、抗血小板剤の使用に関しては慎重な判断が必要と思われました。ですので、脳卒中治療ガイドライン2015では、隠れ脳梗塞例に対する抗血小板療法は科学的根拠が乏しく,抗血小板療法を行う場合は個々の症例を十分に検討した後に行うべきだとしているのです、症例ごとに慎重に判断されるべき病態と考えます。
まとめ
隠れ脳梗塞は症状がないので誰も気づかない病気です。しかし、年齢を重ねるごとに病状が進行していく可能性があり、将来的には厄介な脳卒中や認知症へ移行するリスクがあることを認識する必要がでてきます。医療の進歩により脳卒中による死亡は激減しましたが、今なお脳卒中や認知症が医療介護費用のトップとなっています。命は助かっても後遺症が残れば、日々の生活に不自由を感じながら過ごすことになってしまいます。したがって、脳卒中にならないための予防が大切ですので、普段から塩分を控えた食事をとり、適度な運動を心がけ、喫煙や大量飲酒を避けることが大切です。しかし、実際にこれらを完璧にこなせる人は多くはありませんので、将来の脳卒中や認知症について不安のある方は脳ドックなどを受診して、まずはご自身の現状を把握することから始めていきましょう。